あっと・ねいん

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道交法で解決する「首都高で右側走行を続けて良いのか」問題

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 ネット上の様々なところでよく白熱している、「首都高右側走行を続けて良いのか」あるいは「首都高に追越車線はあるのか」問題。首都高や警視庁、県警などに問い合わせをして確認している記事や動画なども複数見受けられます。しかし問い合わせ先によって回答が微妙に異なっている場合や、問い合わせた人物によって記事や動画で紹介している内容が違っていることが多く、とても信用なりません。またこれが更なる論争を生んでしまっているように感じます。

 そこで私は動かぬ法規「道路交通法」でこの論争が全くもって無意味であることを示せると考えています。まずはやはり道交法で車線に関してといえば、な第二十条からです。

(2022/09/30 一部更新)

道路交通法第二十条を確認

(車両通行帯)
第二十条 車両は、車両通行帯の設けられた道路においては、道路の左側端から数えて一番目の車両通行帯を通行しなければならない。ただし、自動車(小型特殊自動車及び道路標識等によつて指定された自動車を除く。)は、当該道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)に三以上の車両通行帯が設けられているときは、政令で定めるところにより、その速度に応じ、その最も右側の車両通行帯以外の車両通行帯を通行することができる。
2 車両は、車両通行帯の設けられた道路において、道路標識等により前項に規定する通行の区分と異なる通行の区分が指定されているときは、当該通行の区分に従い、当該車両通行帯を通行しなければならない。
3 車両は、追越しをするとき、第二十五条第一項若しくは第二項、第三十四条第一項から第五項まで若しくは第三十五条の二の規定により道路の左側端、中央若しくは右側端に寄るとき、第三十五条第一項の規定に従い通行するとき、第二十六条の二第三項の規定によりその通行している車両通行帯をそのまま通行するとき、第四十条第二項の規定により一時進路を譲るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、前二項の規定によらないことができる。この場合において、追越しをするときは、その通行している車両通行帯の直近の右側の車両通行帯を通行しなければならない。

(罰則 第百二十条第一項第三号、同条第二項)

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 今回重要となる第一項・第三項をまとめますと、「右左折時や追越時その他止むを得ない場合等の例外を除き、車両通行帯の設けられた道路では左側を走れ、三車線以上あるなら一番右以外を速度に応じて走れ。追越を行うときは一つ右の車線を使え。」となるでしょう。

 首都高で理由なく右側走行を続ける行為が違反であることはこの部分のみで明白であるように思えます。しかし片側2車線ある東京外環自動車道にて、この第二十条違反での取り締まりがとある理由で後から取り消しになるという不思議な事件が起きていました。

外環で起きた事件から解ること

東京外環道で2400人誤摘発 埼玉県警、車両通行帯違反 

2014/5/23付
 
 埼玉県警は22日、三郷市東京外環自動車道で、2006年1月~今年4月、誤って約2400人を道路交通法の車両通行帯違反で取り締まっていたと明らかにした。科した反則金は計約1400万円に上り、約80人は違反点数累積で免許停止や取り消しとなった。

県警は金の返還や点数抹消手続きを進めるが、住所変更を届けていなかった場合などは返還が難しい可能性もある。

県警によると、05年末に三郷ジャンクション―三郷南インターチェンジの約4.5キロ間で、本来必要な県公安委員会の決定がないまま、片側2車線の車両通行帯と定め、追い越し車線を理由なく走り続けたドライバーを取り締まっていた。

今年4月、県警が高速道路の車線を調べる中で発覚。当時、公安委に報告し忘れたのが原因で、交通規制課の岩根忠課長は「誤って違反告知した方に深くおわびします」とコメントした。〔共同〕

東京外環道で2400人誤摘発 埼玉県警、車両通行帯違反 :日本経済新聞

  驚きのニュースです。片側2車線ある外環埼玉区間に県公安委員会による指定がなされていなかったことにより、車両通行帯は無かったことになっていたということなんだそうです。確かに道交法第四条で、道路標識等の設置は公安委員会が行うと示されています。

公安委員会の交通規制)
第四条 都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理、歩行者又は車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる。この場合において、緊急を要するため道路標識等を設置するいとまがないとき、その他道路標識等による交通の規制をすることが困難であると認めるときは、公安委員会は、その管理に属する都道府県警察の警察官の現場における指示により、道路標識等の設置及び管理による交通の規制に相当する交通の規制をすることができる。

 つまり、公安委員会による設置がなされないと片側2車線ある道路であろうとそれが車両通行帯のある道路とは言えないということになります。色々疑問がわきますがまずは「車両通行帯」とは何なのかについて引き続き道路交通法で確認してみましょう。

車両通行帯の定義を確認

 道交法の第二条には各用語の定義が示されています。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
七 車両通行帯 車両が道路の定められた部分を通行すべきことが道路標示により示されている場合における当該道路標示により示されている道路の部分をいう。
 
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 車両通行帯は道路標示で定められているよ、とのことです。ではその車両通行帯を示す道路標示とは一体どんなものなのか。これは「標識令」とも呼ばれる、「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」という法令で定められているので確認してみましょう。別表第五・第六から車両通行帯に関する部分を抜粋しました。

別表第五(第九条関係)
規制標示
種類
番号
表示する意味
設置場所
車両通行帯
(109)
交通法第二条第一項第七号に規定する車両通行帯であること。
車両通行帯を設ける道路の区間
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別表第六(第十条関係)

 

規制標示
車両通行帯(109)
記号
色彩
一 高速自動車国道の本線車道以外の道路の区間に設けられる車両通行帯
(一) ペイント又はこれに類するものによるとき
又は
 
(二) 道路びよう、石又はこれらに類するものによるとき
二 高速自動車国道の本線車道に設けられる車両通行帯

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 画質が悪く図中の文字が非常に読みにくいのですが、どこでも見られるものですから大体は把握できるでしょう。車両通行帯の道路標示は109番と定められているようです。

 では、公安委員会による車両通行帯の設置が無かった状態のあの車線標示は法律上ではいったい何だったのでしょうか。

車両通行帯でない片側2車線以上の道路とは

 よく「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」を読んでみると、車両通行帯と酷似した道路標示が別表第五と第六に示されていました。

別表第五(第九条関係)

指示標示
種類
番号
表示する意味
設置場所
車線境界線
(206)
四車線以上の道路の区間内の車線の境界であること。
車線の境界を示す必要がある道路の区間

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別表第六(第十条関係)

指示標示

車線境界線(206)
記号
色彩
一 ペイント又はこれに類するものによるとき
又は
二 道路びよう、石又はこれらに類するものによるとき

e-Gov法令検索

 これは車線境界線(206)と呼ばれているようです。見れば見るほど似て…いや全く同じなのではないでしょうか。違いなどなく判別のしようがありません。ちなみに道路標示ではなく区画線としての車線境界線(102)も全く同じのようです。

 つまり日本の片側2車線(4車線)以上の道路には公安委員会が車両通行帯として標示を設置した区間と、見た目は全く同じの車線境界線として設置した区間があるということになります。問い合わせたりでもすれば教えてくれるかもしれませんが、我々が自力で判別するのは不可能です。なんと厄介な標示なのでしょう。

 ここで、例えば首都高が管轄の公安委員会によって車両通行帯の設置がなされていなかったとすると、右車線の走行継続は違反ではないのではと思うかもしれません。しかし、車両通行帯の設置されていない道路についてもほぼ同じルールがあることが道交法第十八条に明記されています。

道交法第十八条を確認

(左側寄り通行等)
第十八条 車両(トロリーバスを除く。)は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、自動車及び原動機付自転車にあつては道路の左側に寄つて、軽車両にあつては道路の左側端に寄つて、それぞれ当該道路を通行しなければならない。ただし、追越しをするとき、第二十五条第二項若しくは第三十四条第二項若しくは第四項の規定により道路の中央若しくは右側端に寄るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない。
2 車両は、前項の規定により歩道と車道の区別のない道路を通行する場合その他の場合において、歩行者の側方を通過するときは、これとの間に安全な間隔を保ち、又は徐行しなければならない。

(罰則 第二項については第百十九条第一項第二号の二)

 

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  同じように今回重要となる第一項のみをまとめますと、「右左折時や追越時その他止むを得ない場合等の例外を除き、車両通行帯の設けられていない道路では左寄りで走れ」となります。車両通行帯ではなく車線境界線で道路が左右二つの車線に区切られている場合は左寄り、つまり左車線に寄らなければならないということになります。

 つまりもし首都高に車両通行帯が設置されていなくても、理由なく右側走行を続けることが違反であると分かります。ちなみに条文の通り道交法十八条第一項に罰則はありません。(もちろん違反は違反ですが。)

 次に、並行して議論となる首都高など都市高速に「追越車線」があるのかどうかの問題もオマケ程度に確認してみましょう。

追越車線の有無の議論は無意味

 自動車の運転免許を所持していて「追越車線」という用語を聞いたことのない人は居ないでしょう。高速道路を走行しているとよく頭上に「走行車線」「追越車線」と書かれた看板がそれぞれの車線に対応して設置されていますよね。

 しかし「走行車線」「追越車線」という用語は道路交通法・道路構造令をすべて読んでも一度も出てきません。(道路構造令に「付加追越車線」は出てきますが)

 そこで、実際に道路上の看板などで使用しているNEXCOの東日本さんにそれぞれ何を指しているのかを問い合わせ、それぞれの定義としては以下の回答を貰いました。

 

「走行車線」

複数の車線が設けられている場合の一番右側の車線(追越車線)以外の車線

「追越車線」

片側に複数車線がある場合の最右端の車線のことであり、走行車線を走っている前車を追い越すための車線

 

 実際に使用している側による定義は以上になりますが、この二つの用語は法令上の用語ではなく、キープレフト原則を表す交通標語的意味合いの通称(下線部は回答原文ママ)に過ぎない、とのことでした。実際に道路交通法と道路構造令のどちらにも出てこなかったことはこの裏付けになります。

 ここまでがNEXCO東日本さんによる回答です。お忙しい中ありがとうございました。

 つまり当然、この単なる交通標語「追越車線」という案内が一切ないからと「車両通行帯の設けられた道路において、原則一番右側の車線は追い越しや右折等の目的があるときにのみ利用できる車線」或いは「車両通行帯の設けられていない道路において、原則一番右側は追い越しや右折等の目的があるときにのみ利用できる部分」という道路交通法が公道である首都高においてひっくり返ることはあるはずがありません。

 つまり追越車線の有無は、交通ルールの議論・主張においては全く無意味なのです。

  

私の考えまとめ

 首都高には右合流や右分離が多いこと、また追越車線という呼称を用いていないこと、そしてそれらにより車線に関する取締りが少なめであることもあって、大原則であるキープレフトに相反する特例があると勘違いしてしまう人が多くなってしまっているようです。

 日々混雑する首都高で全員が左側を走行したり頻繁に追い越しで車線変更を行ったら大混乱に陥ることでしょう。ですから空いている時くらいは追い越し終了後にすぐ左側に戻るよう心掛けたり、前の車についていけないような速度で右側を走行しているならば後ろが詰まり始める前に適宜左側に移動する等の心がけは最低限必要であると考えます。

 ご意見・ご指摘などお待ちしております。

 

 

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