道交法を知らない人「白色実線中央線ははみ出し禁止」
あなたは中央線(センターライン)に関して、「白色破線ははみ出し可能、白色実線ははみ出し禁止、黄色実線ははみ出しての追越し禁止」などと覚えていませんか? 前回に引き続き「道交法を知らない人」シリーズです。そしてまた同じようにこのタイトルの発言は日本語としては正しいことを言っています。白色実線だけでなく、白色破線や黄色実線を含めた「中央線」について今回も各法令を確認していきたいと思います。
そもそも「中央線」ってなに
道路交通法では左側通行の原則(いわゆる広義のキープレフト)について書かれた第十七条第四項において、「中央線」なる用語が初めて登場します。
(これ以降の条文引用では、不要な部分を中略しています。全文はリンク先をご確認ください。)
(通行区分)第十七条4 車両は、道路(歩道等と車道の区別のある道路においては、車道。以下第九節の二までにおいて同じ。)の中央(軌道が道路の側端に寄つて設けられている場合においては当該道路の軌道敷を除いた部分の中央とし、道路標識等による中央線が設けられているときはその中央線の設けられた道路の部分を中央とする。以下同じ。)から左の部分(以下「左側部分」という。)を通行しなければならない。
ここで「中央線」は、道路の中央を示す為に設置される道路標識等(=道路標識+道路標示(=道路標示+区画線))であると書かれています。加えて左側通行の原則、つまりは道路の中央あるいは中央線をはみ出して走行してはならないことが書かれています。
この次の第五項で第四項の例外となる事例が書かれています。
5 車両は、次の各号に掲げる場合においては、前項の規定にかかわらず、道路の中央から右の部分(以下「右側部分」という。)にその全部又は一部をはみ出して通行することができる。この場合において、車両は、第一号に掲げる場合を除き、そのはみ出し方ができるだけ少なくなるようにしなければならない。一 当該道路が一方通行(道路における車両の通行につき一定の方向にする通行が禁止されていることをいう。以下同じ。)となつているとき。二 当該道路の左側部分の幅員が当該車両の通行のため十分なものでないとき。三 当該車両が道路の損壊、道路工事その他の障害のため当該道路の左側部分を通行することができないとき。四 当該道路の左側部分の幅員が六メートルに満たない道路において、他の車両を追い越そうとするとき(当該道路の右側部分を見とおすことができ、かつ、反対の方向からの交通を妨げるおそれがない場合に限るものとし、道路標識等により追越しのため右側部分にはみ出して通行することが禁止されている場合を除く。)。五 勾配の急な道路のまがりかど附近について、道路標識等により通行の方法が指定されている場合において、当該車両が当該指定に従い通行するとき。
これらをまとめると、「道路が一方通行の時と,構造上の狭さや障害の存在によりはみ出さないと通行できない時と、道路が片側6m未満で道路標識等ではみ出しての追越しが禁止されていない場合に追越をする時と、右側通行の標示がある時に限り例外的に右側にはみ出すことが出来る。なお一方通行の時以外ははみ出しを最小限にすること。」となるでしょう。
つまり「中央線」は、以上の例外に当てはまらない限りは絶対にはみ出してはならないもの、ということになります。
中央線の種類ごとの設置条件と効能比較
次に中央線として主に使われる、白色実線・白色破線・黄色実線それぞれの設置条件を道路標識、区画線及び道路標示に関する命令で確認します。
別表第三・第四において区画線「車道中央線」としての白色実線・白色破線について書かれています。
別表第三(第五条関係)
種類 番号 設置場所 車道中央線 (101) 車道(軌道敷である部分を除く。以下この表及び別表第四において同じ。)の幅員が五・五メートル以上の区間内の中央を示す必要がある車道の中央別表第四(第六条関係)
車道中央線(101) 車線境界線(102) 記号 色彩 記号 色彩 四車線以上の車道に設置するとき 白 白 又は 二車線以上の車道に設置するとき (石又はこれに類するものによる場合) (石又はこれに類するものによる場合)
二車線以上の車道に設置するとき 白 (高速道路等の入口、出口、分岐点、登坂車線又は乗合自動車停留所(以下「高速道路等の入口等」という。)の附近に設置する場合) 備考一 表示
ここでは,区画線「車道中央線」としての中央線は幅が5.5mの際に設置され、四車線以上で白色実線(特に必要な場合は二重実線)、二車線以上で白色破線(特に必要な場合は白色実線)を設置すると書かれています。
次に、別表第五・第六では道路標示「追越しのための右側部分はみ出し通行禁止」としての黄色実線と、道路標示「中央線」としての白色実線・白色破線について書かれています。
別表第五(第九条関係)規制標示
種類 番号 表示する意味 設置場所 追越しのための右側部分はみ出し通行禁止 (102) 交通法第十七条第五項第四号の道路標示により、車両が追越しのため右側部分にはみ出して通行することを禁止すること。 車両が追越しのため右側部分にはみ出して通行することを禁止する道路の区間指示標示
種類 番号 表示する意味 設置場所 中央線 (205) 道路の中央であること又は交通法第十七条第四項の道路標示による中央線であること。 道路の中央を示す必要がある道路の区間別表第六(第十条関係)規制標示
指示標示
追越しのための右側部分はみ出し通行禁止(102) 記号 色彩 一 図示の道路のA及びBの部分を通行する車両に対して、追越しのため右側部分にはみ出して通行することを禁止する場合
(一)
(二)
二 図示の道路のBの部分を通行する車両に対して、追越しのため右側部分にはみ出して通行することを禁止する場合 黄
中央線(205) 記号 色彩 一 道路の右側部分にはみ出して通行してはならないことを特に示す必要がある道路に設置する場合
二 一以外の場所に設置する場合
(一) ペイント又はこれに類するものによるとき 白 (二) 道路鋲、石又はこれらに類するものによるとき 三 道路の中央以外の部分を道路の中央として指定する場合
(一) 常時指定するとき 白 (二) 日又は時間を限つて指定するとき 四 一及び三の(一)の場合で特に必要があるとき 白
一 表示備考(六) 「追越しのための右側部分はみ出し通行禁止」を表示する規制標示で一の(一)又は(二)の様式のものは、「中央線」を表示する指示標示を兼ねるものとする。
ここでは、道路標示「追越しのための右側部分はみ出し通行禁止」としての中央線は黄色実線、道路標示「中央線」としての中央線は左側通行の原則を特に示す必要があるときや道路の中央でない場所を中央線とする時に白色実線(特に必要な時は二重実線)、それ以外の場合に白色破線を設置すると書かれています。中央線が移動する場合の標示については今回は一旦置いておきましょう。
ここまでで確認したこと、すなわち交通ルールの大原則である「道路交通法」と「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」からわかる中央線の種類ごとの違いを軽くまとめてみましょう。
「白色実線」
・はみ出してはならない。
・道路標示としては左側通行の原則を特に示す必要がある時と、道路の中央でない場所を中央線とする時に、区画線としては四車線以上もしくはそれ未満でも特に必要な時に設置される。
・構造上の狭さや障害の存在によりはみ出さないと通行できない時と、道路が片側6m未満で道路標識等ではみ出しての追越しが禁止されていない場合に追越をする時に限り、例外的に右側にはみ出すことが出来る。
「白色破線」
・はみ出してはならない。
・白色実線の条件に当たらない時に設置される。
・構造上の狭さや障害の存在によりはみ出さないと通行できない時と、道路が片側6m未満で道路標識等ではみ出しての追越しが禁止されていない場合に追越をする時に限り、例外的に右側にはみ出すことが出来る。
「黄色実線」
・はみ出してはならない。
・はみ出しての追越しを禁止する時に設置される。
・構造上の狭さや障害の存在によりはみ出さないと通行できない時に限り、例外的に右側にはみ出すことが出来る。
一般的な意識とは少し違っているかもしれませんが、実はこれが二つの交通ルールの基本となる法令からわかる大原則となるわけです。大事なのはすべて原則としてはみ出してはならないこと、白色実線や黄色実線であろうと例外に当てはまればはみ出すことは可能であるということです。
しかしなぜ白色実線の中央線だけを「はみ出し禁止」と強調する記述や意見がよく見られるのでしょうか。これには道路標示「中央線」としての白色実線を設置する条件の「左側通行の原則を特に示す必要がある場合」という箇所に原因があると考えられます。ふんわりとした表現ですが、これを細かく規定した資料が存在します。
交通規制基準を確認
交通規制を実施する場合の標準を示す為に「警察庁交通局長」が「各管区警察局長」と「各都道府県警察の長」に向けて出す通達「交通規制基準」というものがあり、この総則の章の「適用」の部分で「この基準は、法第4条第1項又は第5条第1項の規定により、都道府県公安委員会又は警察署長等が道路標識等を設置し、管理して交通規制を行う場合に適用する。」と書かれています。
道路交通法第四条において、「規制を行う道路標識等は各都道府県委員会が設置する」と定められていますから、この交通規制基準というものが実際に標識などを設置する際のルールブックと言えるでしょう。
この交通規制基準の中央線の設置方法に関する部分を確認してみましょう。
1 表示の方法は、次によるものとする。
(1) 実線
ア 舗装された部分の片側の幅員が6メートル以上の道路に設置する場合又は法定追越し禁止場所に設置する場合においては、中央線は実線により表示するものとする。
イ 実線の幅は、原則として15センチメートルとし、車両通行帯が設置されている場合又はこれと連続する場所に設置する場合は、20センチメートルとする。
(2) 破線
ア 舗装された部分の片側の幅員が6メートル未満の道路に設置する場合においては、中央線は破線により表示するものとする。なお、舗装された部分の片側の幅員が6メートル未満の道路において、車両が道路の右側部分にはみ出して追越しを行うことを禁止する必要があるときは、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制を行うものとする。
イ 破線の幅は、原則として15センチメートルとし、車両通行帯が設置される場所又はこれと連続する場所に設置する場合は、20センチメートルとする。破線の長さ及び間隔は、原則としてそれぞれ5メートルとする。
2 道路標示の材料等は、中央線を破線とする場合は、原則としてペイント等を用い、特に必要がある場合は、ペイント等に代えて道路鋲、石等を用いるものとする。また、実線とする場合は、ペイント等を用いるものとするが、道路鋲を併用することができるものとする。この場合における道路鋲等の幅は10~15センチメートルとし、間隔は1~5メートルとする。
3 次の場合は、中央線を2本の実線で表示することができる。この場合における実線の幅及び間隔は、10~15センチメートルとする。
(1) 前記2の(1)及び常時中央線変移を行う場合に該当する場合で特に必要があるとき。
(2) 道路標示「進路変更禁止(102の2)」が設置されている道路の区間に中央線を設置するとき。
(3) 多車線道路に中央線を設置するとき。
(4) 道路の急なまがりかど付近等において、道路の中央を越えることによって交通事故が著しく発生しているとき。
ここで道路標示「中央線」のうち、白色実線は片側が6m以上の道路や追越が法律で禁止された道路に設置され、白色破線は片側が6m未満の道路に設置されると定められています。また白線二重実線に関しても書かれています。
つまりは道路標示「中央線」が白色実線である場合は、片側が6m以上であったりそもそも道交法で追越を禁止されている場所であることにより、「片側が6m未満の道路であれば追越の際にはみ出しができる」という左側通行原則の例外が適応されるということが理論上存在しないわけです。
また区画線においても、道路標識令にて主に四車線以上の道路に設置されるとされていることから、それを含めても白色実線が中央線であるときはほとんどの場合、「構造上の狭さや障害の存在によりはみ出さないと通行できない時」くらいでしかはみ出すことができなくなってしまう訳です。
これを少し誤って捉えてしまい、ただ「白色実線ははみ出し禁止」と強調してしまう風潮が一部にあるのでしょう。
結論とおまけ
結論として今回のタイトルで何を訴えたいかといいますと、「白色実線の中央線ははみ出し禁止」という発言は確かに日本語として正しいことを言っているけれど、まずそもそも中央線はどんな形態であろうとはみ出しは原則としてできないということです。
また逆に、黄色実線や白色実線であろうと例外に当てはまっていればはみ出すことは可能なわけです。
最後におまけのメモです。あまり存在しないものではありますが、道路管理者の設置する区画線「車道中央線」であれば白色実線でもはみ出して追越しできる可能性や、白色破線でもはみ出して追越しできない可能性があったりします。実際調べてみるとわかりますが区画線の細かい設置基準は道路管理者によって違っています。しかし区画線であるか道路標示であるかを我々一般人が判別することはできません、目視で6mを測れというのでしょうか。基本的にはすべて公安委員会の設置した純粋な「道路標示」であると考えた方がよさそうです。